Q:いまさら聞けない・・・国民民主党が主張する「103万円の壁」って、要するにどういうこと?
第50回衆議院選挙で大躍進した国民民主党。与党との連携については、政策ごとに是々非々で協力するスタンスを示しています。そこで一気に注目を集めるようになったのが、「103万円の壁」をめぐる施策です。
いわゆる年収の壁対策のように言われていますが、どんなメリットがあるのでしょうか。働きたい主婦・主夫層のホンネを探る調査機関「しゅふJOB総研」研究顧問で、ワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに尋ねました。
――国民民主党が主張する「103万円の壁」に関する施策がずっと話題になっていますね。この施策は、具体的にどういった内容なのでしょうか?
川上さん:給与収入が103万円を超えると、所得税を支払うことになります。この金額は1995年に設定されましたが、当時の最低賃金は611円でした。しかし、その後最低賃金は上がり続け、2024年には1,055円になりました。その分、103万円という金額はオーバーしやすくなっています。
――最低賃金が上がり続けているのに、所得税を支払うボーダーラインが変わっていないというのは変な感じがしますね。
川上さん:国からすると、最低賃金が上がるほど所得税を徴収しやすくなるし税額も増えるという面もあります。そのため、103万円というボーダーを引き上げて、178万円までは所得税がかからないようにしようというのが国民民主党の主張です。
1995年の最低賃金611円と比較すると、2024年は1055円なので1.73倍になっています。178万円とは、103万円を1.73倍した金額です。
――なるほど。ボーダーが103万円から178万円に引き上げられると、その差額である75万円については所得税がかからなくなるということですね。
川上さん:そうです。つまり、給与収入を75万円増やしても、まるまる手元に残るということです。ただ、もし主婦層が収入を75万円も増やすとなるとかなり大変だと思います。そもそも主婦層が収入を抑えているのは、家庭と両立させるためにフルタイムで働きにくいことが理由だからです。
そんな“時間制約の壁”がある限り、75万円も収入を増やすことはどうしても難しくなります。また、103万円を超えて収入を得たとしても、月額8万8000円以上(年換算で約106万円)になったり、年収130万円以上になると社会保険に加入することになります。
――確かに、主婦層にはそもそも、長い時間働けないという悩みがあります。また、年収の壁は103万円だけではないですよね。
川上さん:年収103万円以内に収めて働く主婦層はたくさんいますが、その理由は必ずしも所得税を払いたくないからではありません。所得税は103万円を超えた部分に税率がかかるので、手取りが103万円を下回ることがなく、いわゆる働き損は発生しないからです。
それよりも、配偶者の勤め先から支払われる家族手当の支給条件の対象が年収103万円以内になっていることが多い点が影響している面があります。一方、106万円や130万円などの社会保険については、加入することで却って手取りが減ってしまう働き損が発生します。
働き損発生の救済策として政府が「年収の壁・支援強化パッケージ」を始めましたが、103万円の壁が対象になっていないのはそのためです。106万円の壁の方については、いま撤廃することが議論されていますね。
――ということは、国民民主党が主張するように103万円を178万円まで引き上げても、年収の壁対策にはならないということですか?
川上さん:年収の壁対策になるとは言えません。年収の壁対策のメインは社会保険の壁ですし、103万円の壁を解消するには、会社が支給する家族手当の条件を改定する必要があります。
ただ、所得税のボーダーを178万円に引き上げれば、103万円をオーバーしても収入がそのまま手元に残ります。特に、既に178万円以上の給与収入がある人については、103万円との差額75万円に所得税がかからなくなるので、その分の手取りが増えることになります。
――それは嬉しいですね。
川上さん:嬉しいですね。手取りが増える施策は、ご家庭の助けになるはずです。国民民主党が主張する所得税のボーダーライン引き上げは、103万円の壁というより「103万円の底」と表現した方が、誤解を招きづらいと思います。
物価高が続き、家計はひっ迫しています。103万円の底を引き上げる施策が実現すれば、多くの家庭において、恩恵を感じられることになるのではないでしょうか。
プロフィール
川上 敬太郎
ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。