Q:社会保険の加入条件って、これからも拡大していくの?
しゅふ層には、扶養枠を意識しながら働いている人がたくさんいます。中でも、社会保険(年金と健康保険)は徐々に加入条件が拡大を続けているだけに、今後の動向が気になるところです。
そこで、働きたい主婦・主夫層のホンネを調査する「しゅふJOB総研」研究顧問でワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに、社会保険の加入条件がこれからどうなっていくのか尋ねました。
――いま、社会保険の加入条件などをめぐって様々な議論が進められているようですね。現状の仕組みを理解するにあたって、ポイントはありますか?
川上さん:社会保険とは主に年金と健康保険のことを指しますが、扶養枠との兼ね合いで考える場合に、まず押さえておく必要があるのは国民年金と厚生年金の違いです。
――国民年金と厚生年金とでは、加入条件が異なるのですか?
川上さん:そうです。社会保険の扶養枠が外れるケースは、大きく2つあります。1つは、勤め先の従業員数が101人以上で、かつ以下4つの条件すべてに当てはまる場合です。
①週の所定労働時間が20時間以上
②所定内賃金が月額8.8万円以上
③2ヶ月を超える雇用の見込みがある
④学生ではない
これらの条件を満たすと、厚生年金と健康保険に加入することになります。月額8.8万円を年換算すれば、8.8万円×12ヶ月=105.6万円と約106万円になるため『106万円の壁』などと呼ばれています。
もう1つは、年収が130万円以上の場合。こちらは国民年金と健康保険に加入することになります。『130万円の壁』などと呼ばれていますね。
――なるほど。106万が厚生年金、130万が国民年金ということですね。社会保険に加入することになった場合、国民年金と厚生年金とでは何が違うのでしょうか。
川上さん:厚生年金に加入すると、国民年金より上乗せされた金額が支給されます。国民年金に入ると基礎年金が支給されますが、厚生年金に入ると基礎年金に加えて給与に比例したプラスαの金額も支給されるからです。そのため、厚生年金は2階建てなどと言われたりしますね。
また、厚生年金の場合は月々支払う保険料が企業と折半されるので、収入によっては国民年金よりも保険の支払額が低くなる場合もあります。
――となると、厚生年金に加入した方がお得ということですね?
川上さん:年金受給を前提に考えるなら、受給額が高くなるという点においてはそうだと思います。ただ、しゅふ層は家計補助を目的に働いている人が多いため、将来受けとる年金よりも、そもそも社会保険に加入せず、月々の手取り額を増やすことを優先したいと考える人もたくさんいます。
――確かに、ご家庭の事情によっても判断が変わってきそうですね・・・。社会保険の加入条件は、今後どのようになっていきそうですか?
川上さん:まず、今年(2024年)の10月から、厚生年金に加入する条件が変わります。勤め先の対象が、従業員数101人以上から51人以上へと拡大されるのです。
さらに、厚生労働省の「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」では、従業員数の条件を撤廃する方向で検討を進めるべきとの提言がまとめられました。今後、さらに加入条件が拡大する可能性がありそうです。
――そもそも、扶養枠という制度自体をなくした方が良いという意見も聞きますね。
夫が働いて妻を養うという、専業主婦世帯が標準モデルだった時代には合致していた面もあると思いますが、夫婦共働き世帯の方が圧倒的に多くなった現代においては、扶養枠というシステム自体が合わなくなってきているのは確かだと思います。
ただ、既に扶養枠という仕組みが定着している以上、制度を変えれば生活に少なからず影響が出るはずです。また、年金制度については、人生設計そのものに関わってきます。
しゅふ層から寄せられる声は様々です。「扶養枠なんて不公平だ」と非難する声もあれば、「扶養枠は絶対になくして欲しくない」という声もあります。制度は時代に合わせて変えていく必要がありますが、その影響を見定めつつすぐに変えられるところと、数十年というスパンで変えていくところを整理しながら改革を進めていく必要があるのではないでしょうか。
プロフィール
川上 敬太郎
ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。