Q:年末が近づくにつれて増えるシフト調整・・・“年収の壁”って何とかならないの?

年末が近づくにつれ、「年収上限を超えそうなので、シフトを減らしたいのですが・・・」という申し出が増えてシフト調整が大変。扶養枠の条件になっている“年収の壁”って、どうにかならないのか―――。

扶養枠で働く主婦層が多い職場で、よく耳にするそんな悩みの声。そこで、ワークスタイル研究家で、働きたい主婦・主夫層のホンネを調査する「しゅふJOB総研」の研究顧問でもある川上敬太郎さんに話を伺いました。

――年末が近づくと、“年収の壁”を超えないよう勤務時間を調整したいという要望が増えるのでどうにかしたい、という職場の声についてどう思いますか?

川上さん:扶養枠に収めようと調整して働いている主婦層にとっては、生活に関わる切実な問題です。しかし、職場側もシフト調整の手間が増え、穴が開けば人員を確保しなければなりません。調整の数が増えるほど業務は煩雑になってしまうので、年収の壁をなんとかしたいというお気持ちもまた、切実だと思います。

――政府は昨年10月に、「年収の壁・支援強化パッケージ」を始めました。この施策は“年収の壁”対策となり、職場の悩みは解決されるのでしょうか?

川上さん:年収の壁対策にはなると思います。「年収の壁・支援強化パッケージ」とは、一時的な収入増により、年収130万など社会保険の扶養枠が適用される上限額を超えても扶養枠に入り続けたり、助成金によって働き損にならないよう支援する施策です。

社会保険の扶養枠は、年収の壁を超えると、一定額以上の収入がなければ扶養枠内に収まっていた時よりも却って手取り額が減ってしまいます。そのため働き損と言われますが、「年収の壁・支援強化パッケージ」を利用すれば働き損が回避できるので、働き手は年収の壁を気にせずに働きやすくなります。

よって、一定の効果は見込めますが、扶養枠内に収めて働いている人すべてが必ずしも利用するとは限りません。そもそも扶養枠の制度は複雑でわかりづらく、さらにこの施策も理解しなければならないとなると、それなりに負担がかかります。また、配偶者の勤め先から支給される家族手当については対象外ですし、時限措置なので2年後には施策自体がなくなる可能性もあります。

――では、“年収の壁”は今後もなくならないのでしょうか?

川上さん:政府は、2025年に予定する年金制度改革の検討を進めています。その際に扶養枠のあり方が改革される可能性はありますが、現時点で年収の壁がなくなるかはわかりません。

かつては、夫が働き妻は専業主婦という世帯が多く、モデルケースとして適していました。しかし、いまは共働き世帯が2/3以上を占めています。そんな家庭環境の変化を踏まえ、システムも適宜変化させていく必要はあるはずです。

一方、扶養枠は既に長い期間、各ご家庭の生活に組み込まれてきました。仮に年収の壁を廃止するとしても、いきなり次の年からという訳には行かないと思います。制度変更で不利益を被る人が出ないよう配慮しながら、10年20年と長いスパンで段階的に対処していくことになるのではないでしょうか。

――“年収の壁”に対処するには、制度が改革されるのをジッと待つしか方法はないのでしょうか。職場でできる対策はありますか?

川上さん:制度改革を待たなくても、職場の中でできることはあります。ポイントは、年収の壁を超えて、働き損が出ない程度まで年収を増やしやすい状況をつくり出すことです。

そのために、大きく2つの方法があります。1つは、在宅勤務をしやすくして通勤時間を不要にすることです。そうすれば、通勤時間分を勤務時間に充てられるので、家庭とのバランスはとりつつも収入を増やすことができます。

もう1つは、時給単価を上げることです。パートだからと単価の低い仕事だけを任せるのではなく、その人の経験やスキルを活かせる仕事を切り出すことで時給単価を引き上げることができれば、年収の壁を越えやすくなると期待できます。

例えば、マーケティングの経験があったり、人事で制度設計に携わっていたなど、より付加価値の高い仕事を任せられるだけのスキルや経験を持った人材が主婦層の中にもいます。ぜひ、主婦層がまだ活かしきれていない能力に目を向けてみてはいかがでしょうか。

川上 敬太郎

ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。