Q:在宅勤務がしゅふ層に人気って聞くけど、一体どんなメリットがあるの?
かつては、夢の働き方でしかなかった“在宅勤務”―――。しかし、皮肉なことに、コロナ禍で緊急事態宣言が発出されたことがきっかけで身近な働き方になってきました。コロナ禍がひと段落したいまも、主婦・主夫層を含め、在宅勤務を希望する声はあちこちから聞こえてきます。
一方、在宅勤務の導入が職場側にどんなメリットをもたらすのかも気になるところ。そこで、ワークスタイル研究家で、働きたい主婦・主夫層のホンネを調査する「しゅふJOB総研」の研究顧問でもある川上敬太郎さんに話を伺いました。
――在宅勤務に対する主婦・主夫層の方々のニーズは強く、オールビジネスリンクでご紹介している仕事も、約3割が部分在宅を含めた在宅勤務の仕事になっています。なぜ、在宅勤務は人気が高いのでしょうか?
川上さん:仕事と家庭の両立に頑張っている主婦・主夫層は、いつも時間に追われています。出かける前は朝食の支度や保育園の準備などに追われ、帰りは保育園のお迎えや買い物をこなし、夕飯の支度に間に合うようダッシュするといった慌ただしさ。
しかし、在宅勤務であれば通勤に費やしていた時間を自由に使うことができます。その分、家事や育児にゆとりをもって取り組めるだけでなく、趣味や読書などの時間がとれたり、ゆっくりと一人でくつろぐ時間も確保しやすくなります。
――確かに、一人でゆっくりできる時間って貴重ですよね。実際どれくらいの主婦・主夫層が在宅勤務を希望しているのでしょうか?
川上さん:決して、全員が全員在宅勤務を希望しているという訳ではありません。しゅふJOB総研で主婦・主夫層に在宅勤務と出社勤務のどちらを希望するかを調査した際には、「在宅勤務希望」が37.4%で一番多かったものの、「半々」「一概に言えない」がそれぞれ約2割、「出社勤務希望」も22.9%いました。
在宅勤務の方が人気は高いものの、出社勤務を希望する人も少なくありません。また、年代が上がるにつれて出社勤務を希望する比率が高まる傾向も見られました。60代以上の層に限れば、逆に出社勤務希望者の方が多くなります。出社勤務を希望する理由は様々ですが、最も多かったのは、家にいると仕事との切り替えがしづらいという声でした。
――なるほど。職場まで足を運ばないと仕事モードに切り替えられない、という感じはわかります。
川上さん:また、年代が上がるにつれて子育てがひと段落していき、時間の融通が利きやすくなるという理由もあるのかもしれません。一方で、40代以下の層だと、在宅勤務希望者の方が圧倒的に多くなります。
――となると、採用の際に40代以下の主婦・主夫層に選ばれやすくなることが、在宅勤務を導入する職場側のメリットということになりますか?
川上さん:確かにそれもメリットの一つですが、それだけでもありません。50代以上の層にも在宅勤務を希望する人はいますし、他にもメリットはいくつもあります。
例えば、通勤する必要がない仕事環境をつくることができれば、全国どこからでも、海外在住の方でも人材を採用することが可能になります。職場と自宅との距離に制約を受けなくなるからです。また、通勤時間が不要になる分、働く時間を長くすることなどもできます。人手不足で労働力確保の難易度が上がっている中、労働時間が延ばしやすくなることのメリットは少なくないと思います。
――近年、人手不足倒産が増えているという話も耳にします。必要な労働力をしっかり確保できるかどうかは、会社の存続にも直結しかねない深刻な問題ですね。
川上さん:そう思います。在宅勤務と出社勤務のどちらを希望するかは人それぞれです。しかし、出社勤務しかできない職場より、必要な時は在宅勤務もできる職場の方が、働き手からも選ばれやすくなるのではないでしょうか。
在宅勤務しやすくなった背景には、テクノロジーの進化があります。介護など、いまのテクノロジーではまだ在宅勤務が難しい仕事もありますが、クラウド環境でファイルをやりとりし、どこにいてもZoomなどを使って会議できるようにはなりました。もし、インターネットがない時代にコロナ禍が起きていたらと思うとゾッとします。
在宅勤務が選択できれば、災害発生時など働き手は無理な出社をせずに安全を確保できます。テクノロジーの進化の恩恵を享受し、職場が在宅勤務できる環境を整備しておくことは、メリットにはなってもデメリットになることはないのではないでしょうか。
プロフィール
川上 敬太郎
ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。