Q:ブランクが長い人は戦力にならなさそうだけど・・・採用するメリットってあるの?

仕事から離れている期間は、ブランク(=空白)と呼ばれます。さらに、「ブランクが長い人は戦力外」と見なしているという採用担当者の方の声を聞くこともあります。ブランクがあると、その人材を戦力化することは難しいのでしょうか。

そこでワークスタイル研究家で、働きたい主婦・主夫層のホンネを調査する「しゅふJOB総研」の研究顧問でもある川上敬太郎さんに話を伺いました。

――そもそも、なぜ仕事から離れているブランク期間はマイナスと見なされてしまうのでしょうか?

川上さん:野球やサッカーなどスポーツの経験がある人は、久しぶりにプレーしてみると昔のように体が動かない、と感じることがあると思います。ブランク期間に必要な筋力が衰えたり、勘が鈍ったりしてしまうからです。

仕事も同様です。職場を離れていると、仕事勘が鈍ってしまいます。また、仕事に就いていない間の情報も更新されません。仕事環境は常に変化しているので、働いていれば取得できたはずの情報が抜け落ちてしまいます。そのため、仕事を離れているブランク期間はマイナスと見なされるのです。

――では、ズバリうかがいます。ブランクが長い人は戦力にならないのでしょうか?

川上さん:ブランク期間は長ければ長いほど、マイナスに働くと見なされる傾向にあります。ただ、確かに仕事勘が鈍ったり情報が抜け落ちることはあると思いますが、それらは再び働き出せば取り戻せていくものです。何年も自転車に乗っていなくても、少しペダルをこいでみればすぐに以前のように乗れるようになるのと似ていると思います。

ブランクが長ければ、その分取り戻すための時間がかかる可能性はあるかもしれませんが、個人差もありますし、ブランクが長いというだけで戦力にならないと見切ってしまうのは早計です。

――とはいえ、ブランクがない人と比較すると戦力になってもらうまでの時間がかかりそうですね。会社としては、敢えてブランクが長い人を採用するメリットはないということでしょうか?

川上さん:必ずしも、そうとは言えません。ブランクと採用の関係を考える上で重要なポイントが、2点あります。1つは、先ほどもお話したように、ブランクが長くても勘を取り戻し戦力として活躍してくれる可能性があることです。2023年の有効求人倍率は1.31。求職者1人に対して1.3件の仕事がある売手市場です。そんな採用難の状況下で、ブランクが長いという理由だけで選考対象から外してしまうのは、とてももったいないことだと思います。

そしてもう1つは、ブランク期間にも成長している人材がいることです。例えば子育てで仕事から離れていた場合、子育てとはいいつつも、実際には親の方も育てられています。赤ちゃんが泣いている理由を察知する力であったり、忍耐力であったり、ホスピタリティであったり。そういった、人の内面に備わるソフトスキルはブランクと見なされている期間にも磨かれています。

他にもコミュニケーション力やマネジメント力、企画力など、ソフトスキルはどんな仕事においても活かされるオールマイティなスキルです。私は、様々なソフトスキルを伸ばしてくれる、家仕事を回す力のことを「家オペ力(家仕事をオペレーションする力)」と呼んでいます。

――なるほど。しかし、ブランク期間に磨かれたスキルを評価する会社は少ないように思います。

川上さん:だからこそ、そこに未発見の宝が眠っている可能性があります。「ブランク期間が10年あるから」などと、それだけで選考から外してしまうのはもったいないことです。実際にはブランク期間などではなく、10年の家オペ期間なのです。その間にどんなことに取り組み、どんなスキルが磨かれたと思うのかをぜひ確認してみていただきたいと思います。

職務経験にブランクはあったとしても、人生にブランクなどありません。

ブランク期間を何もなかった期間と決めつけるのではなく、その間に何に取り組んできたかを面接等で語ってもらう中でその人材が磨いてきたソフトスキルを確認できれば、活躍してくれるイメージが描きやすくなるはずです。

ブランク期間が長い人材の中から有能な戦力を見つけ出すことができる会社は、採用力において他社より大いに有利となるのではないでしょうか。

川上 敬太郎

ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。