Q:コロナ禍が明けてテレワークが激減・・・それって良いこと?それとも悪いこと?
政府が懸命に呼びかけても、なかなか浸透することがなかったテレワーク。しかし皮肉なことに、コロナ禍がきっかけとなって一気に広がることとなりました。ところが、今度はコロナ禍が収束するにつれてテレワークが激減しているのだとか。
それって良いことなのでしょうか、悪いことなのでしょうか。働きたい主婦・主夫層のホンネを調査する「しゅふJOB総研」研究顧問でワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を伺いました。
――まず、率直に伺いますが、テレワークで働く人は減っているのでしょうか?
川上さん:大きく減っていますね。日本生産性本部が発表している「第14回 働く人の意識調査」によると、コロナ禍で初めて緊急事態宣言が出された2020年5月のテレワーク実施率は31.5%。それがジリジリと減少し、直近の2024年1月には14.8%と半分以下になりました。
――そんなにも減ってるんですね・・・。確かに、コロナ禍で仕方なくテレワークにしたら生産性が下がってしまったという話も聞きます。そう考えると、テレワークから出社に戻す傾向が見られるのは良いことなのでしょうか?働き手からすると、テレワークの方がいいという人も多そうですけど。
川上さん:出社に戻すことが良いか悪いかは、一概には言えないと思います。ただ、多くの職場がテレワークを体験したことで、テレワークのデメリットも広く認識されるようになりました。Zoomなどを使えばどこでも顔を見ながら会議などをすることはできるのですが、同じ空間に集うことでしか得られないグルーヴ感というか臨場感というものがありますね。
――売上目標を達成したからみんなで喜ぼう!などと思っても、その場に人がいないといま一つ盛り上がりに欠けるという感じはわかります。
川上さん:そういう感覚って、やはり同じ空間を共有していないと物足りなさがありますよね。私は、ビールとノンアルコールビールの違いに似ていると感じています。ノンアルコールビールでも十分おいしいし、のどを潤すことはできるのですが、酔うことはできないというか。
――それが、川上さんのおっしゃるグルーヴ感ということですね?
川上さん:そうです。職場の雰囲気を盛り上げたり、一体感を醸成したり、互いに刺激を与えあう中でインスピレーションを生み出したり、企業文化を継承したいなどと思うと、テレワーク中心では出社していたころと比較して物足りなさが出てしまうかもしれません。
また、特に社歴が浅く経験が少ない社員にとっては、五感をフルに使って情報をキャッチした方が経験値を高めやすいという面もあるように感じます。
――となると、テレワークから出社に戻したほうがメリットは大きいということになりますか?
川上さん:いや、そうとは一概に言えないのは、テレワークにはテレワークの良さもあるからです。人によっても職務内容によっても向き不向きがありますが、テレワークの方が出社するより仕事に集中できるという人もいます。社員全員がテレワークという会社もあるように、そういう前提で職場を運営していけば、それで上手く回していけるものでもあるのだと思います。
また、そもそもテレワークが上手く運用できていない職場は、DXが遅れていたり自律的に仕事をこなせるようになっていないなど、業務設計に不備があるケースが多く見られます。テレワークが上手く運用できている職場は、臨機応変に在宅勤務に切り替えたりすることができます。さらに、在宅勤務できれば通勤に費やしていた時間を有効活用できますし、通勤ラッシュで疲弊することもなくなります。
――そう考えると、テレワークできるメリットって大きいですね。一度テレワークを経験すると、二度と出社には戻れないという声を聞くこともあります。
川上さん:出社とテレワークのどちらがいいのかは、会社ごとの戦略なので一概には言えません。ただ、台風などの災害時や育児など、状況に応じてすぐにテレワークに切り替えられる柔軟さは備えていた方が良いはずです。でないと、再びコロナ禍のようなことが起きてしまった場合、事業がストップしてしまう危険性があります。
テレワークが不可能な職務でない限り、働き方が出社一択しかないという状態だけは避けた方が良いのではないでしょうか。
プロフィール
川上 敬太郎
ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。