Q:自民党総裁選でも話題になっていたけど、解雇規制って何が問題なの?

石破首相が勝利した自民党総裁選では、解雇規制論争が注目を集めました。雇用されている人すべてに関わる解雇規制。しかし、イマイチ良くわからないという人もいるのではないでしょうか。

そこで、JBpressなどで解雇規制について執筆し、ABEMA Primeでパネラーとして議論に参加した「しゅふJOB総研」研究顧問でワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに尋ねました。

――自民党総裁選では、立候補者である河野一郎氏や小泉進次郎氏が解雇規制見直しを主張して話題になりました。世間で言われているように、日本の解雇規制は厳しいのでしょうか?

川上さん:日本の解雇規制が厳しいかどうかは、どの視点に立つかで意見が分かれると思います。OECDが2019年に行った調査では、日本の労働者保護の厳しさは37カ国の中で25番目です。どちらかというと緩い方に位置づけられています。

――それは意外ですね。でも、世の中には解雇規制が厳しいという印象があるのはナゼですか?

川上さん:労働契約法16条には、解雇について以下のように記されています。

“解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。”

これは裏返すと、合理的で社会通念上相当と見なされれば解雇できるということです。他には30日前予告などの定めがあるくらいで、金銭補償をするような規定もありません。そのため手続き上は、比較的容易に解雇できてしまいます。

ただ、問題はその解雇が本当に合理的で社会通念上相当なのかどうかです。この判断が難しく、合理性が認められるには相応の手順を踏むなどの要件も求められるといった事情から、実質的に解雇はしづらい状況にあります。手続きだけ見れば緩い、しかし合理的と認められる幅は狭い。どちらの視点に立つかで、緩くも厳しくも見えるのだと思います。

――だからわかりにくいんですね・・・。では、実際に解雇されることはあまりないのでしょうか?

川上さん:いえ、それでもたくさんの解雇が行われていると思います。実数は把握しきれませんが、全国の労働局等に寄せられる解雇に関する相談は、令和5年だけ見ても32,944件に及びます。相談すらされないケースも含めると、相当の数がありそうです。

――ということは、不当な解雇でも泣き寝入りしている人がいるということですか?

川上さん:残念ながら、その可能性はあると思います。ただ、不当解雇だと争っても、最終的には金銭で解決するケースが多いのが実情です。必要ないと言われている会社で働き続ける状況は社員にとっても辛いですし、不当解雇するような会社に戻って働きたいという人も決して多くはないでしょう。

しかし、あっせんなどで解決する場合は10万円など低い金額に留まるケースが見られます。裁判すれば給与半年分以上になったりすることもありますが、解雇されてすぐに次の仕事を探さないと生活に影響が出てしまう中で、会社を訴えるという選択肢は取りづらい人が多いと思います。

そこで、一定以上の金銭を補償する必要性が指摘されています。解雇の金銭解決は、現実的な検討テーマだと考えます。

――でも、お金を払えば解雇できてしまうから雇用が不安定になる、と懸念する声がありますね。

川上さん:金銭解決ルールを設けるなら、制度設計は慎重に進めなければなりません。どの程度の金額に設定するかは、重要なポイントの一つだと思います。金額が低いと解雇権が濫用されてしまう懸念がありますが、例えば、解雇する場合は次の仕事を見つけるまでに生活で必要となる程度の金額を補償するといった仕組みであれば、検討の余地はあるのではないでしょうか。

――特に女性は結婚や出産などを機に退職するケースが多く見られるだけに、安易に解雇規制が緩められてしまうとしたら心配です。

川上さん:妊娠や出産、育児を理由に解雇することは、男女雇用機会均等法で禁じられています。ただ、現時点では女性労働者のみが対象になっているなど法制度の不備も見られます。

不当解雇が横行しないようにしつつ、一方で手続きは緩いけどしづらい、というややこしさがある現状を踏まえ、解雇の“規制緩和”というより、“ルール整備”が必要なのではないでしょうか。

川上 敬太郎

ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。